トランプ米大統領の「エルサレム大使館移転宣言」で中東はどうなる!?重信メイ氏、蟹瀬誠一氏に緊迫する中東情勢の行方を訊く(2017/12/11)

12月11日のニューズ・オプエドは月曜レギュラーのスポーツ特集を変更して、先日のトランプ大統領の「エルサレム大使館移転宣言」によって緊迫する中東情勢を受けて、レバノン在住のジャーナリスト、重信メイさん、そして先月お仕事でイスラエルに行ってきたばかりの国際ジャーナリスト、蟹瀬誠一さんをゲストにお迎えして、中東の今後を語っていただきました。 

【川島ノリコアシスタント】
トランプ米大統領が、今月6日の午後に「エルサレムをイスラエルの首都として公式に承認する時と決断した」と述べましたが、この発言が世界的に大問題になっています。

【上杉隆アンカー】
この発言の時にはもう日本に来てたんでしたっけ?

【重信メイ氏】
いえ、まだレバノンにいました。

【上杉】
どんな感じでしたか、雰囲気は?

【重信氏】
もちろん怒りは高まってましたし、まだデモとかは出ていなかったんですけども、「こんなことを勝手にアメリカが決めるもんじゃない」っていう怒りが大きいですね。アラブ世界だけでなく、イスラエルは宗教的聖地なので、かなりの人達が影響されるという感覚があるので、怒りは広がって行くばかりで、トルコやジャカルタでも大量の人数のデモが出ているという感じですね。

【上杉】
今現在イスラエルが占領しているエルサレムは、3つの宗教のふるさとと言われてます。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教ですね。人類の歴史の不思議ですが、なぜ一つの場所に…?

【重信氏】
古い宗教の影響を受けて、その中から新しい宗教が生まれてきたりしているので、私はだいたい同じ場所が聖地になるのは、おかしなことではないと思います。イスラムが一番新しい宗教ですが、キリスト教やユダヤ教の影響も受けてます。サウジのメッカも元々はイスラム教の聖地ではないんですね。ユダヤ教の父と言われるエイブラハムが作った聖地なんです。

【上杉】
宗教が派生することによって重なってくると…考えてみると仏教もヒンドゥーの一分野ですからね。たしかにそうですね。

【蟹瀬誠一氏】
ユダヤ、イスラム、キリスト教の難しいところは、一番新しく出てきたイスラム教のムハンマドが一番地位的に上なんだという発想があるから…。

【重信氏】
それはどの宗教もありますよ。ユダヤ教徒は自分たちが選ばれた民族だと思ってますし、キリスト教徒もイエス・キリストを通して自分たちは神に選ばれ、天国に入ると思ってますし、イスラム教徒は一番最後の預言者であるムハンマドが一番だと思ってますし…「自分たちの宗教が一番」というのは、残念ながらどの宗教もそう思ってますね。

【上杉】
で、このエルサレムという町がどういうところかというと…蟹瀬さん、先月行かれたんですよね。

【蟹瀬氏】
イスラエルの中の旧市街、最大の都市ですけど、2番めの都市であるテルアビブは近代都市なんですんが、エルサレムはそこから車で2時間ぐらいですかね。歴史的な建物が多く、かたやイスラムのモスクがあり、ユダヤ教の地域もあり、うまく地域が分けられてはいるんだけど、そこに緊張がある…という感じですね。

【上杉】
よく映像で見るのは嘆きの壁とドームですね。

【蟹瀬氏】
嘆きの壁っていうのは俗称で、祈ってる姿が泣いてるように見えるところから「嘆きの壁」と言われるようになったんですね。

【上杉】
今回エルサレムがイスラエルの首都であるというのを、イスラエルの首相でなく、アメリカのトランプ大統領が宣言することで大きな騒動になってると…なぜアメリカの大統領がこれを言うんですかね?

【重信氏】
アメリカはもちろん昔からイスラエルとの関係が強いので、歴代大統領がイスラエルはアメリカの一番の友人だとか、エルサレムがイスラエルの首都だとか言うんですが、ただ、実行には移さなかった。それはエルサレムという場所がいかにセンシティブであるかを知っていますから。

【上杉】
トランプ大統領がTwitterで「歴代大統領も同じことを言っている」という動画をだしていたので、それを見てみましょう。

※動画はトランプ大統領のTwitterで御覧ください。

【上杉】
たしかに歴代大統領、言ってましたね。

【重信氏】
ただこれは皆、(選挙の)キャンペーン中の発言なんですよね。

【蟹瀬氏】
ユダヤ・ロビーはアメリカでは最強ですよ。資金力、政治的な影響力はアメリカの議会に行くとよくわかって、特に選挙の時期が近づくと、こういう発言はするんだけど、実行には移さない、と。93年にはクリントン大統領が仲介してイスラエルとパレスチナがお互いの存在を認めあうような「オスロ合意」が調印されました。しかしあのあとイスラエルのラビン首相が暗殺されて、中東の状況はもとに戻ってしまった…そういった非常に微妙な外交の状況があるんですよね。

【上杉】
言うだけだったら中東の方は動かなかったわけですよね?

【重信氏】
言うだけで実行されないなら、そういうものだという認識があったんだけれども、トランプ大統領は「私たちは大使館をエルサレムに移転する」そして「そしてエルサレムを永遠の首都(エターナル・キャピトル)として認める」と言いました。これは傍観者としての発言ではなく、イスラエル政府がよく使う表現です。1947年に国連が「二つの国家」という考え方を出した時に、エルサレムだけはどこの国家のものでもない「国際地」にして、パレスチナでも、イスラエルでもないと…。

【蟹瀬氏】
パレスチナ自治政府も、一つの国として認められたときには、そこ(エルサレム)を首都にしたいという希望は出てるんですよ。

【重信氏】
ただ、それは東エルサレムを指してるんですよね。エルサレム全部ではないんです。イスラエルはそれに対して「全部が私達のエルサレムだ」と言ってるんです。それを歴代のアメリカ大統領たちは「一体化したエルサレムがイスラエルの首都」と認めているわけで、パレスチナ側の言い分を認めてないわけですね。

【蟹瀬氏】
2014年の4月に交渉が止まっちゃって、すごく悪い状況の中でトランプの過激な発言が出たわけですね。

【上杉】
エルサレムの写真が出るかな…?

【上杉】
これは蟹瀬さん、どこなんですか?

【蟹瀬氏】
右側のほうがいわゆる「嘆きの壁」ですね。その向こう側にイスラムのドームがあります。二つの宗教が共存してる感じですね。

【重信氏】
さっき言った「聖地が一体化している」というのは、ユダヤ人たちはあのドームの下にソロモン王の宮殿があると言ってるんです。その上にイスラムのドームができてる、と。だから一つの土地なんですよ。下にある宮殿の壁(嘆きの壁)だけが残っているとイスラエル人は思っているわけです。

【上杉】
これは…?

【蟹瀬氏】
これはどういう気持で信仰している人たちが嘆きの壁に向かっているのかなと、自分でもやってみないと気持ちがわからないと思ったので…。

【上杉】
話を戻しますが、アメリカはエルサレムに大使館を移すと言ってるんですが、はたしてそんな場所があるのか?警備も大変だし…どういう考えなんでしょうね?

【重信氏】
90年代にこの問題が出た時は、一回ストップがかかったんですね。その原因は、アメリカが使おうとした土地が、違法にイスラエルから買った土地だと判明したんですね。この土地はイスラエルが追い出したパレスチナ難民の家族のもので、南米に住んでいるそうです。土地はそのパレスチナ人の家族が所有権を持っているのです。

その後イスラエルが「軍事法」というものを作ったのですが「土地が放置されていたら、その土地をイスラエル政府が没収する権利がある」と言うものなんです。でも追い出されたパレスチナ難民は自分の意志で土地を放置したわけではないのです。そういう方法で没収した土地をアメリカに売ったのかもしれないということなんですね。

【蟹瀬氏】
入植地をどんどん作っていって、「ここは我々の陣地である」ということで、イスラエル全体の地図の中をおさえていってしまおうと。

〜中略〜

【上杉】
中東の地図を見ておさらいしましょう。トルコの南にシリアがあって、その西にある小さな国が重信さんが住んでるレバノンです。この南にイスラエル、パレスチナがあります。この狭い地域に今回世界の注目が集まっているということなんです。

今背景も含めて話をしてきましたが、なんでこういうことになっているのかということで、前回重信さんがオプエドに出たときに「これからこういうことが起きますよ」と説明するための図を書いてくれました。それがこれです。

今回のエルサレムの関係で言うと、左端のイラン、そしてヒズボラ、これが結構ニュースに出てきます。このヒズボラというのはアメリカのニュースなんかを見てますと、いかにも「反政府組織、テロリスト集団」のようですが、実際はどうなんですか?

【重信氏】
実際にはレバノンの合法的な組織で、与党だったり大臣がいたりします。ヒズボラはレバノン人が作ったレバノンに根付いた組織で、かなりの人が支援しています。サウジなんかが「レバノンはヒズボラを排除するべきだ」などと言いますが、そんな問題じゃないんです。国の手が届かない地域の福祉援助をヒズボラがやっていたりするんですから。イスラエルから攻撃を受けた時に、レバノンの軍が攻撃すると国と国の戦争になってしまいますが、ヒズボラがそれに対応して、バッファーゾーンのような役割も果たしています。

【蟹瀬氏】
テロリストとかテロリズムとかよく使われるんだけど、アメリカのメディアを見ていると、アメリカの思想に反対していて、武力を行使して人を殺しているとみんなテロリストになるんですよね。アメリカの利益のために暴力を使って人を殺している人は「フリーダム・ファイター」って言うでしょ?これは独善的で、日本のメディアもそれに追従してしまいがちだけど、そうやってシロかクロかを色分けしてしまうっていうのは、怖いんですよね。

【上杉】
そして自分の側が常に正しい、となってしまうのが日米のメディアの特徴ですよね。

【重信氏】
日本がアメリカの政治的なジオポリティクス(地政学、地理的条件)のための、プロパガンダ的な報道にくっついていくのはおかしいですよね。日本は日本の枠組みの中で考えればいいのに、もう全部アメリカぴったりでやってるから…。

【蟹瀬氏】
戦後の日本の政治構造はアメリカにくっついていくように人も選ばれ、組織も作られ、メディアも…そういう歴史の中でやってきたから。

【上杉】
まさにいま重信さんが指摘したように、今回のトランプ発言について、だいぶん官房長官も含めて追認したような発言があるんです。一方で同じ同盟国のイギリスは明確に反対しましたよね。日本の政府はどうしてアメリカ側の方に必ず寄るか?これはまあ、蟹瀬さんがおっしゃったように「自己決定できない」と、まさにそのとおりなんですが、この判断は今後どのように影響するか、想像できますか?

【重信氏】
日本の政治家はそのほうが無難だと思ってるんだろうけれども…たしかにアメリカは大国だけれども、中東とこれからもビジネスをやっていくことを考えると、気をつけないとこれまで「友人関係」とみられていたところも変わっていく可能性がありますよね。

【蟹瀬氏】
日本は中東のゴタゴタ、戦争には距離をおいたほうがいいと思う。かつて石油欲しさの「油外交」なんてことも言われたけど、わかってない人たちがそこに首を突っ込むのは非常に危険。一方的に「アメリカの言ってることは正しい」というのもおかしいし、フランスやイギリスのように「明確に反対」というのも現実的には言わないほうがいいと思う。

【上杉】
そういう意味では、蟹瀬さんがさっき言った科学技術とか、そういう日本が得意とする分野で各国とやっていったほうがいいのかな、という気もしますね。…質問もありますか?

【川島】
「もしトランプ大統領のエルサレムに対する言動を日本が支持してしまったらどうなるのでしょうか?」という質問です。

【重信氏】
立場が問題ですね。「この国はどういう立場なのか?」と、そういうことが政治にもビジネスにも関わってきますよね。

【蟹瀬氏】
アラブとも仕事をしてるし、イスラエルともしてるわけだから。

【上杉】
これ、もしかして、頭の体操ですけど「日本も大使館をエルサレムに移します」と言ったらどうなっちゃうんですか?

【重信氏】
それはもう、完全に敵対することになるでしょうね。

【上杉】
いやもう、安倍さんが何言うかわからないから。「そんな事言わないだろうな」という、まさかのことを言ったりするんで…。

【重信氏】
でも大使館を移転するというのは大きなことですからね…そう簡単にやるものではないでしょう。今回のトランプ大統領は、自分の娘婿のクシュナーさんがユダヤ・ロビーの、画面の外にいる人ですから…。クシュナーファミリーの会社がすごい力を持っていて、その会社がイスラエル入植地のためのファンドを出していたりするんです。本格的にイスラエルの政権の行動にお金を出して助けている側だったりするんです。またトランプ大統領も、一般的な民主党支持層にも共和党支持層にもあまりサポートされてない代わりに、キリスト教徒のエバンジェリストのサポートなら…キリスト教徒だけどシオニストなんですね。その人たちのサポートを得るのを狙っているところがあるかもしれないですね。

このあとは有料時間帯となりますが、蟹瀬さんから先月行ってきたイスラエルの「ハイテク大国」としての側面を語っていただきました。非常に先進的なシステムで、国を挙げてハイテク分野の産業に取り組んでいるイスラエルは、ヘタをするともう日本が太刀打ちできなくなるほど先を行ってるということです。そのあたりの話は是非有料会員登録の上、番組をご視聴ください。

12月11日放送分は、12日の16時まで無料会員登録(ブロンズプラン)でご視聴いただけます。それ以降、および番組開始から60分を過ぎる部分のご視聴には、シルバープラン以上の有料会員登録が必須です。